2026.03.19
店主の日記

マイクの前で、少しだけ背伸びをした夜

三月の風は、昼間の暖かさを嘘のように連れ去って、夜になると少しだけ意地悪な冷たさを残していきます。

昨日の水曜日。 私はいつもの「隅っこ」を抜け出して、川口の街の小さな放送局、FM川口のスタジオにいました。
毎週水曜の19時から流れる『音の駅プロジェクト:サウンドクリエイション音の駅』。
縁あって、スポンサーゲストとしてマイクの前に座らせていただいたのです。

ガラス越しのスタジオ。目の前に置かれた重厚なマイク。
いつもはお客さまの笑い声を遠くから聴いているだけの私が、自分の「声」を電波に乗せる。 それはまるで、誰かの秘密を預かるような、あるいは古いピアノの蓋をそっと開けるような、不思議な緊張感でした。

「お店の宣伝をしっかりしなきゃ」 そう思って準備していたはずなのに…。
蓋を開けてみれば、気づけば時間の八割は他愛のない雑談に消えていました。

好きな音楽のこと、最近デビューした花粉症のこと。 お店の告知は、ほんの二割。
店主としては落第点かもしれませんが、私にとってはそれが何よりも贅沢で心地よい時間でした。

マイクを通して誰かと「対話」をすること。 それは、サンドイッチの具材を丁寧に重ねていく作業に、どこか似ていました。
言葉を選び、相手の呼吸に合わせ、そこにひとさじの体温を添える。

「楽しかったな」 スタジオを後にして、夜の川口の街を歩きながら、ひとり言がこぼれました。
電波の向こう側にいた誰かに、私のとりとめのない話はどんな風に届いたのでしょうか。
淹れたてのコーヒーを啜るような、そんな穏やかなひとときになっていればいいな、と願わずにはいられません。

お店に戻れば、またいつもの日常が始まります。
ラジオで話しきれなかった「あとの二割」の告知は、またこの場所で、ゆっくりとお話しさせてくださいね。

昨夜、耳を傾けてくださった皆さま。 そして、素敵な場を共有してくださった「音の駅」の皆さま。
本当に、ありがとうございました。